研究では、看護師の抱える問題の原因として以下が示されています:
- 経験不足
- 知識不足
- コミュニケ―ションの課題
- 期待値のバランス8
昨今の病院では、新規に採用される看護師に幅広いコンピテンシーを求めています。その最たるものが、リーダーシップスキルです。
看護師は、単に医師から与えられた業務をこなすだけでなく、命を救うための重要な判断を下します。Northern Westchester Hospitalの正看護師(RN)/認定緊急看護師(CEN)のRosanne Greenan氏は言います:
「看護師は、もはや医師から依頼された業務をこなすだけの医療チームの世話係ではありません。私たちは、今や患者の支援・教育者というだけではく、チームのリーダーなのです。私が勤める救急科では、看護師が最初に患者を評価し、在院目標を設定することが多くあります。私たちは、確かな観察を行い、重要なアドバイスをしてくれる同じ医療従事者として医師から認識されているのです。」1
看護学校を卒業後リーダーシップスキルが不足している看護師は、今日の環境においては不利な立場に置かれるかもしれません。また、経験を積んだ看護師でさえも、そのスキルを常に磨いていない場合には同様のことが言えます。今後の看護師にはハードスキルに留まらず、チームワークや問題解決といったソフトスキルも必要となります。つまり、25年前とは大きく異なることが看護師に期待されているのです。
これらの高まる期待に応えるため、看護教育者は、次第にシミュレーションに目を向けるようになってきています。National Council of State Boards of Nursing (NCSBN)によると、今では臨床でのトレーニングの最大50%をシミュレーションに置き換えることができることがわかっています。2 しかし、シミュレーションといってもひとくくりにすべて同じというわけではありません。看護に求められることが変化したように、シミュレーションも変化しています。
これまで、臨床シミュレーションといえば「タスクトレーニング」を意味していました。しかし現在のシミュレーションとは、実践的なリハーサルを行うことであり、そこでは従来のタスクトレーニングが占める割合はほんのわずかです。
看護の分野では新たな達成基準が定着しつつあります。本稿では、この25年間における看護の変遷について検討し、今日の看護環境で必要とされるスキルの指導において、忠実に再現されたシミュレーションがどのように役立つのかをご紹介します。
患者中心のケアにおいては、これまでも看護がその中枢を担ってきました。変化したのは、ケアと重要なパフォーマンス指標の評価における透明性です。
今日の病院は、患者さんの満足度と安全対策に関して政府の厳しい基準を遵守しなければなりません。さらに、病院は、患者安全の支持団体からかつてない程の影響を受け、国民に対する高い透明性のもとで業務を行っています。看護師は、これらの結果に最も大きな影響を与える人的要因です。
安全で効果的な患者ケアを提供するためには、複雑な医療システム、人的要因の限界、安全性の設計原理、信頼性の高い組織の特性、そして患者安全のリソースといったことを、理解することが求められます。これらの要素は、安全な医療を提供する臨床医の育成に際しても極めて重要であり、21世紀の医療提供には不可欠なものです。
看護師を採用する側は、人的要因やシステム要因、態度がどのように患者ケアに影響を与える可能性があるか、といったことを意識している看護師を求めています。つまり、再現性がシミュレーション・プログラムには重要となります。現実味が増すほど、学習者は現実の状況により良く備えることができるようになります。
シミュレーションに大切なのはシミュレータではなく、学習者の経験であるとレールダルは断言します。とはいえ、実際の状況に合わせてハード面とソフト面の両方のスキルを教える際には、シミュレータがその基盤となることに変わりはありません。
環境、目標、期待されるアウトカムを理解することは、必要となる再現性の水準を設けるうえで重要な要素となります。これらの要素を意識しながら、参加者の学習を妨げる恐れのある障壁に妥協してはいけません。
通常、看護師には正確で詳細な患者分析ができ、ケアチームのその他のメンバーに提案するコンピテンシーが期待されます。また、診断とアセスメントにおける看護師の業務範囲には明確な線引きがされているものの、その線引きは25年前のものとは異なります。
現在、我々はコンピテンシーを測定することができます。期待は非常に大きく、透明性もさらに高くなっているため、大きなプレッシャーがかかります。
米国では毎年、約1200万人の人が誤診を経験しています。3これは、年間で成人20人に1人ということになり、通常は一般的な病気が見落とされています。
再現性は、ここでも重要な役割を果たします。診断領域において高い再現性を得るには、現実的なバイタルサインや意識の徴候を表示でき、正しい解剖と重要なランドマークを有するシミュレータを選ぶことが必要です。
また、次のような機能も検討する必要があります:
これらの機能は、学習者による患者の初期判断に極めて重要であり、生理学的モニタリングを実施する機会を提供してくれます。再現性の高いシミュレーションにより、学習者は自分の行動を現実的に捉えることができるようになります。
検証されたシナリオと組み合わせることで、再現性の高いシミュレータによってエビデンスベースの意思決定を下し、その後「リアルな」患者の反応を基に臨床的介入を行うことができます。これは、発生頻度が低く重症の救急処置についてチーム医療の一環としてトレーニングを行う際に特に重要となります。
診断は医療の基礎です。正しい診断がなければ、患者さんは正しい治療を受けることはできません。
このような状況のシミュレーションを行うことにより、知識の習得に加えて、クリティカルシンキングや臨床的思考力、臨床判断スキルといったことに看護師が集中できる環境を促すことができます。
「移行期のショック」とは、教育から実践への急激な変化のことを指し、新人看護師の高い離職率に最も大きな影響を与える要因の一つとされています。4新人看護師の就職1年目の離職率は25%にも上るため、懸念は高まりつつあります。5
また、新人看護師に対する管理者の信頼という点も、多くの病院の課題となっています。調査では、新人看護師が業務を遂行する能力があると信じる看護管理者は10%に留まります。6同時に、看護管理者は通常、戦力に育つまでの期間を最短にし、看護師の生産性を最大限に活かしたいとう希望を持っています。
このすべてがスタッフのストレスにつながり、患者の安全性や満足度の低下という形で現れます。ある研究では、観察した新人看護師の75%に投薬過誤を起こしたことが確認されています。7
医療機関は、このような問題に対して講義中心のトレーニング、カウンセリング、プロトコールや手順のレビューを通じて対応しようとすることが多くありますが、このような対応方法によって、効果が証明されることはめったにありません。
再現性の高いシミュレーションであれば、トレーニング方法だけでなく介入方法としても、このような状況に大きな影響を及ぼすことができます。シミュレーショントレーニングは、学習者の職務に対するエンゲージメントを高め、学んだことを維持し、患者ケアマネジメントに直接影響をおよぼします。9,10,11
看護学校や病院を問わず、介入方法のトレーニングとしてシミュレーションに取り組むことで、焦点を絞ることができ、今日の看護環境において看護師が必要としている自信や能力を育てる助けとなります。
この25年間における看護領域の変化から、より一層、ハンズオンや、包括的、参加型のトレーニングに注目が集まっています。チームワークやコミュニケーションスキル、安全なケアの実践にさらにフォーカスすることで、看護師はより早く、より多くのシミュレーショントレーニングの恩恵を受けられるようになります。
研究所見によると、シミュレーションに参加した生徒は、全体的な自己効率性を高め、バイタルサインの確認に対する自信が生まれ、より良い患者教育を提供できることが示されています。12
学習者は、看護師としての考えを持ち、自分の持っている知識に基づいた意思決定をそれぞれが行っています。安全に学べる環境にいるのですから、誤った方向に進んでも良いのです。もし間違いを犯してしまっても、患者を傷つけることはありません。
現在、看護師には、患者安全や診断、評価、臨床的思考力に対して、より重点を置くことが求められています。あらゆるレベルにおいて、今日の看護師には新たなレベルのリーダーシップと新たな責任感が伴います。
再現性の高いシミュレーションは、看護師が能力やコンプライアンスを伸ばし、最適な患者ケアを提供することにつながります。シミュレーショントレーニングに関してご興味がありましたらレールダルまでご連絡ください。
* Barnsteiner, J. (2011). Teaching the culture of safety. OJIN: The Online Journal of Issues in Nursing, 16(3). Doi 10.3912/OJIN. Vol16No03Man05
** Waszak, D. (2017). Nursing then and now. Retrieved from http://www.workingnurse.com/articles/Nursing-Then-and-Now
*** Baylor College of Medicine. (2017). Reducing misdiagnosis: Time for the next chapter in improving patient safety. Retrieved from https://www.bcm.edu/news/healthcare/reducing-misdiagnosis-patient-safety
**** Fink, J. (2014). Playing a bigger part. Retrieved from http://magazine.nursing.jhu.edu/2014/11/playing-a-bigger-part/